長く音楽レッスンをしていると、音楽そのもの以上に見えてくるものがあります。
それは、その人の学び方です。
僕はこれまで500人以上の方を見てきましたが、レッスンでは実にいろいろなものが表れます。理解の仕方、思考の癖、修正への反応、注意力の向け方、再現力、復習の仕方、そしてプライドの出方まで。音楽を教えているようでいて、実際にはその人の認知の癖がかなり見えてしまうのです。
もちろん、これは人を値踏みするという話ではありません。むしろ逆です。「なぜこの人はここでつまずくのか」「なぜこの人は伸びるのか」を丁寧に見ていくと、単なるセンスや知識量では説明できないものがたくさんある、という話です。
音楽レッスンでは、その人の“受け取り方”が見える
たとえば同じ説明をしても、反応は人によってかなり違います。
ある人は、まずこちらの話を最後まで聞き、わからなければ質問をしたり再度の説明を求め、その後できるだけ正確に再現しようとします。一方である人は、途中で「たぶんこういうことだろう」と自己流で補完し、質問や大した確認をせずに進めます。
結果として、前者は理論がしっかり定着し、後者はあちこち誤解釈を抱えたままということになります。しかも後者は、本人の中では「ちゃんと分かったつもり」になっていることが少なくありません。
これは、頭が悪いという話ではありません。実際、学歴が高い人や、頭の回転が速い人でも、こうしたズレは普通に起こります。
知能が高いことと、人の話を正確に聞き、確認し、再現することは、別の能力だからです。
高学歴でも、指示が定着しないことはある
これはレッスン現場では珍しいことではありません。
- 言われたことを一部だけ覚えて、残りは自分の推測で埋める
- 分からない点があるのに確認せず、そのまま進める
- 修正点を聞いたのに、次回また同じところで崩れる
- 一度理解した“つもり”になると、見直しをしない
こうしたことは、むしろ頭の回転が速い人ほど陥る落とし穴です。理解が速いぶん、「分かったつもり」になるのも速いからです。
ここで厄介なのは、自己流の補完が強い人ほど、自分の誤解釈に気づきにくいことです。そしてズレたまま回数だけを重ねると、勉強はしているのにしっかりと身に着いていない、という状態になります。
音楽学習は、その人の認知の癖が出やすい
なぜ音楽レッスンでは、ここまでいろいろ見えるのかというと、理由はシンプルで、音楽学習が
聴く → 判断する → 試す → 修正する
を何度も回す世界だからです。たとえば、
- 説明を聞いて理屈を理解する
- 音を聴いて違いを判断する
- 習ったことを自分の手で再現する
- 指摘を受け、修正されたものと聴き比べる
- 同じ課題に再度取り組む
この流れの中で、その人の癖がよく出ます。
注意が散漫な人。
注意が一箇所にしか向かない人。
曖昧なままでも平気で進める人。
修正されると萎縮する人。
淡々と直して前に進める人。
分からないことをすぐ聞ける人。
聞けずに抱え込む人。
音楽は感覚の世界でもありますが、上達の過程はかなり認知的です。だからこそ、学び方の違いがそのまま結果に出やすいのです。
伸びる人は、必ずしも“頭が良さそうな人”ではない
長く見ていて思うのは、伸びる人には共通点があるということです。それは、派手な才能ではありません。
- 話を最後まで注意深く聞く
- 分からないところは何度でも質問する
- 言われたことをできるだけそのまま再現しようとする
- うまくいかなかった時に変なプライドを出しすぎない
- しっかり復習してから課題に取り組む
- 課題を十分にやってくる
- 自分の認識のズレを観察できる
こういう人は強いです。
逆に、最初の理解が速くても、
- 自分の解釈を優先しすぎる
- 「やったらダメ」「やってもいい」に2分して覚えようとする
- 修正を自分の曲や考えへの“否定”として受け取る
- 確認を省く
- できない理由を外側に置きすぎる
という傾向が強いと、伸びは不安定になります。音楽は、一発で正解する人が勝つ世界ではありません。ズレた時に、どう戻せるかが大事です。
良いレッスンは、音楽だけでなく「学び方」まで整える
僕は、音楽レッスンの価値は、単に知識やテクニックを渡すことだけではないと思っています。
もちろん、理論、作曲、編曲、DTMの知識は大事です。しかし本当に差がつくのは、その知識をどう受け取り、どう試し、どう修正するかです。だからレッスンでは、正解を教えるだけでなく、
- どこで勘違いしたのか
- なぜ自己流の補完が入ったのか
- どの確認が抜けたのか
- 復習をどう変えるべきか
まで見ます。
ここまで見てはじめて、その人の上達は安定します。そしてこの力は、音楽以外にもかなり効きます。人の話を正確に受け取る力、確認する力、試して直す力は、仕事でも創作でも非常に重要だからです。
最後に
音楽レッスンは、音楽を学ぶ場です。でも実際には、それだけではありません。
そこには、その人の理解の仕方、思考の癖、修正への反応、プライドの出方、聞く力、再現力、メタ認知まで表れます。そして、そこに丁寧に向き合うことで、上達の質は大きく変わります。
もし本気で学びたいなら、ただの情報(動画やブログ記事)よりも、成果物を添削してもらえる環境、そして自分の学習の癖を理解してもらえる環境を選んだほうがいい。僕はそう思っています。
音楽の学習は、才能や知能の勝負だけではありません。正しく話を聞き、耳で確認し、試し、修正してもらい、再度耳で確認する。その積み重ねが、結局いちばん強いのです。こういったことから僕は、単に知識を与えたり曲を直したりするだけでなく、ひとりひとりの個性まで含めてペースを調整したり、課題の内容や伝える注意点を臨機応変に適応させることに常に注意を払っています。

