「8ビート」「16ビート」という分類はナンセンス

リズムのことを勉強し始めると、たいてい最初に出てくる言葉があります。「8ビート」と「16ビート」。ハイハットを8分音符で刻めば8ビート、そこに16分を織り交ぜれば16ビート。DTMでドラムを打ち込む人も、当たり前に使っているはずです。

僕は11歳からドラムを叩き始めて、かれこれ50年になります。もちろんこの言葉も使います。使わざるを得ない。それくらい日本に浸透しきった言葉です。

でも正直に言うと、僕はこの「8ビート/16ビート」という分類そのものを、あまり信用していません。むしろ、打ち込みや演奏の上達を妨げかねない、少し厄介な言葉だと思っています。

目次

そもそも、どちらも「4拍子」

日本で「8ビート」「16ビート」と呼ばれているものは、どちらも同じ4拍子です。違うのは、その4拍をどこまで細かく割るか——サブディビジョン(拍の細分化。1拍を2分割で感じるか、4分割で感じるか)の密度だけ。8分で刻めば8ビート、16分まで割れば16ビート。ただそれだけのことです。

つまり両者は別々の乗り物ではありません。同じ一本の道を、どれくらい細かい歩幅で歩くか——その違いにすぎない、というのが僕の見方です。

密度が変わっても、グルーヴは切り替わらない

簡単な思考実験をしてみましょう。1小節の前半2拍は8分中心、後半2拍は16分を用いたフレーズ。DTMでもよく組むごく普通の1小節です。これをループさせる。

もし「8ビートのグルーヴ(ノリ)」と「16ビートのグルーヴ」が本当に別物なら、この1小節の中で2拍ごとにグルーヴが切り替わることになります。しかし実際にはそんなことは起きませんし誰もそんなことをしていません。演奏しているプレイヤーにも、DAWで作っている本人にも、リスナーにも、そこには一本の途切れないグルーヴしかない。増減しているのは音数だけで、脈(パルス。曲の底を流れる一定の鼓動)は変わらず流れ続けています。

Aメロで音を絞り、サビやフィルで16分を畳みかける。曲では日常茶飯事です。そのたびにグルーヴが別物に切り替わっていたら、音楽になりません。だから、音符の密度はグルーヴそのものではないのです。

グルーヴを決めるのは「内側の脈」

では何が決めるのか。表に鳴っている音符の数ではありません。作り手が内側で感じているサブディビジョンと、その脈です。

正直に打ち明けると、僕は4分音符しか叩いていない場面でも、頭の中では16分や3連符を感じています。打ち込みも同じで、置いた音は少なくても、内側のグリッド(DAWの格子と同じ、心の中の目盛り)が細かく回っているかどうかで、ベロシティの付け方も、わずかな前後のタイミングも変わる。だからノリが生まれます。

よく「8ビートと16ビートは別のノリだ」と言われます(YouTubeにその手の動画が星の数ほどあります)。でも正体は、16分という数ではありません。ゴーストノート(ごく小さな音量で挟むスネア)、シンコペーション(アクセントを意図的にずらす手法)、アーティキュレーション(一音の粒立てや強弱)——つまりファンクやR&Bの語法であり、音の置き方です。原因は密度ではなく、スタイルの側にあります。

そもそも、本場にこの分類はない

これは僕個人の思い込みではありません。ビート・ミュージックの本場であるアメリカやヨーロッパでは、そもそも「8ビート」「16ビート」という分け方をしません。そういった分類自体がありません。彼らが言うのは、ストレートの8分なのか16分のフィール(ノリの質感)なのか、あるいは「ファンク」「シャッフル」といった具体的なスタイルの名前です。「8ビート/16ビート」を別々のグルーヴとして並べる発想は、まず出てこない。これは日本だけで育った、和製の分類です。

では、なぜ広まったのか。僕が育った時代は、海の向こうの情報が限られ、本場の演奏に触れる機会も少なかった。頼りは輸入盤のレコードと、わずかな教則本と雑誌くらい。その中で「刻みが8分か16分か」という「密度」で整理してみせるのは、確かに分かりやすかった。だから教育の現場で重宝され、そのまま根を張った。誰かが悪いわけではありません。ただ、その“教えるための便宜”が、いつのまにか「本当に別々のグルーヴがある」という誤解にすり替わってしまいました。

それでも、僕はこの言葉を使う

さんざん文句を並べましたが、それでも僕はこの言葉を使います。言葉はコミュニケーションの道具だからです。「ここは16で」と言えば一発で伝わるものを、わざわざ理屈で言い換えるのは不毛です。

大事なのは、道具として使うことと、実体として信じ込むことは別だということ。「8ビート」「16ビート」は、グルーヴの種類の名前ではありません。せいぜい、そのパターンが基準にしている刻みの目安を指す略号——地図の目盛りのようなものです。目盛りを、別の惑星だと思ってはいけない。

だから僕はまずこの言葉を入り口として渡し、ある段階でそっと種明かしをします。「8ビートも16ビートも同じ4拍子。脈は一本しか流れていない。その脈の上で、音を出す場所を選んでいるだけなんだ」と。

そこに気づいた瞬間から、リズムは一段自由になります。密度に振り回されず、脈を軸に演奏できる。音を置ける。打ち込みでもそれは同じです。

目次