ヘッドホンでは本当にミックスが不可能なのか!?(後編)

では僕が使っているヘッドホンをレビューしていきます。

ミニチュアスタイルで描かれた、ヘッドホンをしてミックス作業に集中している人。小さなデスクに座り、コンピューターやミキシングコンソール、スピーカーに囲まれた音楽スタジオの一角で、真剣な表情で作業に没頭している様子を表現している。

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beyerdynamic DT1990PRO 

ヘッドホンの外側(ハウジング)にスリットがいくつも入っているでしょう? こういったヘッドホンは開放型といって、ハウジングが密閉されていません。だから電車などで移動中に使うのには無理がある(音が盛大に周囲に漏れる)し、歌やアコギの録音時、つまりマイクを立ててレコーディングするような時に、ヘッドホン内の音が外に漏れてマイクに入ってしまうため、レコーディングに用いるにも無理があります(シンセやエレキの録音なら関係ないけどね)。

しかしながら開放型のヘッドホンは、密閉型に比べて音に広がりがあってのびのびとしたサウンドが得られる他、帯域的にもナチュラルで自然なサウンドが得られるのでどちらかというと観賞用に向いている傾向があり、ハイエンドな製品の多くは開放型です。低域の押し出しという点では密閉型に劣る製品が多い中、このDT1990PROは低域の押し出しも素晴らしく、欠点らしい欠点が見当たらない素晴らしいヘッドホンです。

beyerdynamic DT1770PRO 

こちらは密閉型です。音が周囲に漏れ難い、そして周囲の音も入ってき難い。つまり電車などで移動中に使ったり、レコーディングに使うのに向いています。

音的には開放型より不利な点が多いことは否めませんが、密閉されていることによって音像が近くに結ばれるため、独特の閉塞感があります。その閉塞感を嫌う人もいますが、逆に音への没入感が高まるという点でメリットに感じる人も少なくないと思います。

エアコンやPCのファンの音などが遮断されるので、より静寂に近い環境で音に集中できるというメリットもあります。このDT1770PROは、密閉型のメリットである低音は言うに及ばず、密閉型が不得意とされる高音域の伸びも素晴らしく、抜群にバランスのよいヘッドホンです。密閉型モニターヘッドホンの最高峰のひとつです。

SENNHEISER HD650 

この開放型ヘッドホンHD650は音像の広がりが実に素晴らしく、その点においては数あるモニター・ヘッドホンのほぼ頂点にある製品と捉えていいと思います。ヘッドホン・アンプに力が無いと本領を発揮できないので、安価なオーディオ・インターフェイスに繋いでも、あまり冴えない音しか得られないことは覚えておきましょう。

低音、高音ともに伸びが素晴らしく、広々とした音像はまるでスピーカーで聴いているような錯覚さえ覚えます。

緻密さということでは上で紹介した製品に劣るので、自分は主に観賞用として使っています。閉塞感がなく疲れない音です。クラシック向きという人もいますが、パンチの利いた曲もしっかりと再生するのでオールラウンドだと思います。もちろんクラシックは素晴らしいです。

beyerdynamic DT880PRO 

ノイズ・チェック用です。ボーカルや楽器のピッチやタイミングを修正する時にもよく用います。価格の割に解像度が高いので、普通にリバーブの質感のチェックなどにも使えると思います。

セミ・オープン(半開放)型なので、ボーカルやアコギのレコーディングには適していませんが、完全なる開放型ほど大きな音は漏れません(でも電車では無理でしょう)。

「密閉型と開放型のいいとこ取り」と褒められるかというと、メリットもデメリットも全て半分ずつ持っている感じです。長時間の作業を終わらせた後でも、完全な密閉型ほどの疲労を感じないで済みます。

SONY MDR-CD900ST

日本では大人気ですが海外では見かけません。これと似た製品で輸出仕様のMDR7506が海外では主流のようです。アメリカのAmazonで2万3千件以上のレビューが付いてます。

日本のレコスタで900STが人気なのは、全てのパーツが購入可能、ということがあるでしょう。どう壊れても部品を取り寄せれば「安価に」「即座に」修理が可能(バイトくんの仕事のひとつ)。メーカー修理に出しているよりランニング・コストが安く済みますし(プロユースの大きなレコスタなら何十ものヘッドホンが必要)、「壊れたら修理して使う」という日本人の気質にもマッチしているのだと思います。

サウンドは、音像が非常に近く、SONYならではの「水分量の多い音(びちゃびちゃした音)」なので、好みがわかれるところでしょう。購入(ドライバ交換)直後から本領発揮する(エージングが必要ない)点はメリットです。

audio technica ATH-M50x

 優秀なマイクやヘッドホンで有名な日本の老舗メーカー、オーディオ・テクニカ。モニターヘッドホンのATH-M○○xシリーズは安定感があります。

 中でも名機として名高いATH-M50xは密閉型のためレコーディングにも使用できますし、外耳がすっぽりと中に入る”オーバー・イヤー型”のため、CD-900STのようにパッドが外耳を押さえる製品と違い、長時間装着していても外耳が痛くなったり痒くなったりしません。

 また多くの密閉型のように低音が必要以上に強調されることもなく、中高域もスッキリとしたサウンドでCD-900STのようなどっしり&濃密なサウンドとは対照的ですが、それでいてしっかりと迫力やパンチがあるのは見事です。

 この上にM70xというフラッグシップがありますが、バンドが破損しやすいのと8kHz近辺のピークが耳に痛いことを考えるとこちらを選択した方が幸せになれるでしょう。

まとめ

ノリノリでアレンジしたいのか(音量注意)、ノイズ&ひずみチェック特化か、DTM兼音楽鑑賞用か、ボーカル&アコギ録音用か、使い方をしっかり意識して、予算の範囲で評判の良いものを選びましょう。都市部にお住まいなら多くの機種を試聴できる店舗へ出向いてサウンドや装着感を確かめるのが最も確実です。地方にお住まいで試聴が叶わない場合は様々なサイトで信頼できそうなレビューをたくさん見て判断しましょう。雑誌に掲載されている一流エンジニアの言葉よりは頼りになります。

どうしてもヘッドホンでミックスをしなければならない状況の方(赤ちゃんがいる、隣の住民とベニヤ一枚など)は、何を選んでも大差ありませんので、深く考えずブランドイメージやデザイン、そして気分よく使えそうかどうかで選びましょう!

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