デシベルの話(DTMer向け)#2

前回はデシベルの基本的な概念について触れました。今回の連載第2回では、デシベルが具体的にどのように使われるか、特にデジタルオーディオやフェーダーの基準値に注目して解説します。それでは、見ていきましょう!

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目次

必ず基準がある

バケツに水を80%くらい汲むように言われた時、何を100%とした際の80%なのかを聞く必要が無いのは、満タンを基準(100%)として言っていると想像できるからです。たとえば「バケツ満タンの水が何リットルなのか」や「今必要なのは何リットルなのか」といったことを考えなくても、”80%”という数値を使えば量が伝わります。もしリットルの知識がなくても、基準があるおかげで意思疎通ができます。

デシベルも同じように、音圧の単位であるパスカル(Pa)をそのまま使うのではなく、”人が認識できる最小の音圧(20μPa)”を基準(0dB)として、それに対する音量をデシベル(=基準となる0dBとの比率)で表現します。たとえば「隣の犬がうるさくて、スマホで測ったら部屋の中でも60dBあった」と言われると、音量の大小がすぐに伝わります。パスカルの値を理解する必要はなく、”60dB”という数値を知っているだけで音量の程度が簡単に伝わるのです。

基準を0dBとする

オーディオ機器やデジタル音楽制作の世界では、マイクで収録できる音圧やデジタル情報に変換して記録できるデータ量など、すべてに”限度”があります。たとえば、非常に強力な音圧を受け止められるマイクや、莫大な磁力を扱える磁気レコーダーは存在しません。バケツに水を汲める量が100%であるように、オーディオでは信号の最大値が基準(0dB)となります。

デジタル・オーディオでもこの基準は同じです。たとえば、Cubaseのマスター・トラックのメーターを見ると、目盛りに0dB以上は存在しません。これは、デジタル音楽制作において最大音圧が0dBであり、それを超えない範囲で音楽を作る必要があることを示しています。ビット深度に浮動小数点を使う場合などの例外はありますが、基本的には0dB=最大音圧として理解すれば問題ありません。0dBを超えると音がクリッピング(音割れ)してしまうので、注意が必要です。

ちょっと寄り道【RMSのお話】

RMS=二乗平均平方根=単位時間当たりの平均音圧。アナログ時代は70年以上にも渡りピーク0dBのサイン波のRMS値を0dB(基準)としてメーターを扱ってきましたが、デジタル時代になってそれが無視されてしまい、ピーク0dBのサイン波のRMSが”-3dB”と3dB低く表示されるメーターが作られてしまいました。


この瞬間の最大ピークレベルは-12dB、RMSは-15dBと読みとれます。

この手のRMSメーターは”数学的”には正しく波形の実効値を示してはいても、長年全てにサイン波を基準としてきたオーディオの世界の考え方からは逸脱したものとなってしまいました。ちなみに上図のメーターもサイン波を鳴らしてキャプチャしたので、RMSがピークより3dB低く表示されちゃってます。これに関してはボブ・カッツ大先生もお怒りのようです。(ちなみにこの手のメーターでは波形の面積が最大となる矩形波でRMS=0dBとなります)

ちなみにCubaseにはマスター・トラックのメーターのオプションに、”AES17 基準”(The Audio Engineering Society による)” というのがあり、ここにチェックを入れれば、ピークが0dBのサイン波を突っ込んだ時にRMSメータがちゃんと0dBを指し示すようになり、つまり100年以上も前に設立された国際電気標準会議で定められた通りの、”正しい表示”にすることができます(こっちがオプション扱いとは…)。もし誰かがドヤ顔で「マキシマイザーでRMS-4.5dBまで上げたったわー」とか言っていたら「それってどっちのRMS?」と聞いてあげましょう(ちょっと意地悪かな笑)

リアルな空間の音圧と、オーディオの音圧を混同しない

パーセント表示の例として、バケツとコップの水を考えてみましょう。両方とも”50%”減少したとしても、バケツとコップの間に絶対的な量の関連性はありません。これは、基準が異なるためです。デシベルも同様に、リアルな空間での音圧を表すデシベルと、DAW内での音圧を表すデシベルには直接的な関連性がありません。

たとえば、「窓を二重サッシにしたら60dBが40dBに下がった」というリアルな音圧の話と、「スネアが大きすぎたのでフェーダーで20dB下げた」というデジタル音圧の話はどちらも20dBの変化を意味し、音圧が10分の1になるという点では共通しています。しかし、これらのデシベルは異なる基準で測定されていますので、絶対的な音圧の関連性はありません。リアルな音圧とデジタル音圧を混同しないようにしましょう。

フェーダーはまた基準が違う

もう一つ重要な点は、DAWのメーターに表示される数値と、フェーダーに表示される数値には直接的な関連性がないことです。フェーダーの目盛りを見てみましょう。0dB以上の目盛りがあり、このフェーダーでは+6dBまで増加できるようになっています。

これは、メーターとフェーダーの基準が異なるからです。フェーダーにおける0dBは、音源やトラックから出た信号を一切の増減無しで通過させる基準値を示しています。フェーダーでは信号の増加をプラスのdB、減少をマイナスのdBで表しており、最大値が0dBではないのです。

フェーダーが+6dBまで増加できる理由は、一般的なミックス作業ではトラックの音量を下げることが多いためです。ほとんどのトラックはそのままの音圧で使用すると全体の音量が0dBを超えてしまい、音が歪む危険があります。そのため、フェーダーは減少方向に広く動かせるよう設計されていますが、必要に応じて6dB程度の増加も可能となっているのです(Cubaseではデフォルトで+12dBも選択可能です)。

まとめ

  • デシベルは、基準となる0dBをもとに音圧を表す単位です。
  • リアルな空間では20μPaを0dBとして、それとの相対値でデシベルを扱います(主にプラス方向)。
  • オーディオでは最大値を0dBとし、それとの相対値でデシベルを扱います(主にマイナス方向)。
  • フェーダーは信号の増減無しを0dBとして、デシベルをプラス方向にもマイナス方向にも使います。
  • 長年RMSには最大ピークのサイン波を0dBとしてきたが、デジタルでは3dBの誤差が生じています。

次回は、”音圧レベル”と”音響パワーレベル”の違いについて解説します。次回もお楽しみに!

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