あなたの楽曲はノイズまみれかも知れない #02 ビット深度

デジタル音楽制作において、ビット深度は音のクオリティに直結する重要な要素です。このブログでは、ビット深度が音楽の「解像度」にどのような影響を与えるのか、そして解像度が低いとどのようなノイズが発生するのかを詳しく解説します。音楽をクリアで美しいサウンドに仕上げたい方は、ぜひお読みください。

(この記事は約13分で読めます)

目次

ビット深度は”量”に対する解像度

音は空気の疎密波(気圧の変動によるエネルギー)ですが、それをマイクで拾うことで電気的な信号に変換することができます。変換された電気信号はプラス、マイナスと刻々と電位が変化する信号ですから、それをデジタル信号にするには、”今はこの電位”、”次はこの電位”と、刻々と変化する電位の瞬間瞬間の値を記録していくことになります。電位の変化を1秒間に何回記録するか、それがサンプリング・レート(前回の記事『あなたの楽曲はノイズまみれかも知れない【#1】サンプリングレート』で詳しく解説しています)。これは時間方向の解像度です。そして”電位がどういった値なのか”、この”値”を管理(記録・再生)する際の解像度(キメの細かさ)がビット深度です。

下の図はアナログの音声信号とデジタル信号を描いたイメージ図です。アナログ信号の曲線と縦のグリッドラインが交差しているところに順番に赤い点を打っていきました。つまり横ひとマス=1サンプルのイメージで1サンプルごとの電位を記録した、といったイメージです。今回の焦点は、この時の縦方向の電位。音楽制作をする時、これをどれくらいの解像度で管理すべきなのか、というお話になります。

ビット深度と量子化ノイズ

解像度はなぜ高い方が良いのか

さて例えば、「0=最小」から「9=最大」という値の範囲があり、小数点は扱えない環境だとしましょう。その環境下で、6, 7, 8, 9 という連続した数字を3で割り、その後3を掛けてどうなるか見てみましょう。整数しか扱えないので、まずは3で割った小数点以下を切り捨てて、それを3倍すると結果は 6, 6, 6, 9になります。次に3で割る時に小数点以下を切り上げ、それを3倍すると6, 9, 9, 9になります。最後に小数点以下を四捨五入した場合は、6, 6, 9, 9 となります。どれも中央の二つの値は元の値と全く異なってしまいますよね。つまりこのような計算を繰り返せば繰り返すほど値がひどく歪んでいきます。

これがもし小数点第4位まで使える環境だと、3で割って端数を四捨五入し、3倍した数値は、6, 6.9999, 8.0001, 9 となって、ほぼ6, 7, 8, 9にもどりました 。中央の2つは元の値との誤差は1万分の1です。パソコンで音楽を作る時、音量の調整、パンの調整、EQやコンプなどのエフェクトで調整…何をしたとしてもパソコンの中では全て計算により結果を出していますから、解像度が低い=計算の度に誤差が出る=波形が歪む=本来発生しないノイズが出てくる、ということになります。

量子化ノイズを目と耳で確かめてみよう!

ビット数により解像度がどう違ってくるのか

さてコンピューター内での情報は2進法という数値でやりとりされています。0と1しかない世界です。例えば、ある河川の水質汚染の度合いを2進法で表すことになったとします。「ひと桁だけ(1ビット)で表してください」といった場合、0と1の2段階、つまり”汚れていない・汚れている”でしか表せられませんが、「ふた桁(2ビット)使っていいよ」だとどうでしょう。00, 01, 10, 11 と汚染の度合いを4段階で表現できますよね。3桁(3ビット)だと000から111までの8段階で表現できる。つまり桁数がひとつずつ増えるごとに表せる段階(解像度)は倍、倍、倍と増えていきます。つまりビット数が大きい=桁数が多い=解像度が高い=計算結果に誤差が少なくなる、ということになります。

色で考えるとわかりやすい

パソコンの中では8ビット(8桁)をひとつのパッケージ(1バイト)として扱います。8ビットの場合、2の8乗=256段階での表現が可能になります。1990年代にPCを使い始めた頃、PCメーカーは「256色のフルカラー」などと謳っていましたが、夕焼け空の美しいグラデーションなど見られたものではありませんでした。しかしその後MACを手に入れたらなんと65536色!(=256x256。つまり16ビット)で夕焼け空も美しいことこの上ない! 色の解像度が8ビットが16ビットになったことで、データ量としては単に2倍になっただけですが、8ビット増えたことにより色の解像度(=使える色数)はなんと256倍になったわけです。

つまりデジタル・オーディオでも同じで、16ビットから24ビットにするとデータ量はたったの1.5倍でも解像度は256倍、もし16ビットから32ビットにするとデータ量は2倍になりますが、解像度は65536倍、ということになります。解像度にこれだけの差があるので上の動画のような歴然とした違いが出てくるわけです。

アナログは最強、そして最悪

音を数値化するということは、サンプリング・レートにしてもビット深度にしても、こんなにも悪影響が出るんですね。アナログ世代の中には「やっぱりアナログの方が断然音がいいよね」という人が多いのはこういったこともあると思います。アナログの音は、滑らかで、艶やかで、無限の透明感があります。ただデメリットが多すぎる。圧倒的な扱い難さ(友達に曲を聴いてもらうだけでもテープやレコードを発送しないといけない)、再生するたびにメディアに接触するため、繰り返すとどんどん音が劣化する、メディアが場所を取る、経年変化で劣化する、素晴らしい音を求めたら非常に高額なコストがかかる、ヒスノイズとの戦い、スクラッチノイズとの戦い、テープを磁石に近づけたらご臨終、レコード針で盤面に傷をつけたらご臨終、音楽制作もマルチトラックテープレコーダーに音を録音していく必要がある(ノイズやタイミングと戦いながら)…つまりデジタルは”便利” この一言に尽きます。

まとめ

ビット深度は音質に直結する重要な要素です。解像度を高めることで、デジタル音楽制作におけるノイズを抑え、クリアでプロフェッショナルなサウンドを実現できます。PCの性能に応じてビット深度を高く設定し、デジタルのデメリットを最小限に抑えることが、質の高い音楽制作の鍵となります。

プロフェッショナルなミックスのアドバイスが必要ですか?

目次