Ozone de マスタリング Part15 コンプレッサー

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ヴィンテージ・コンプレッサー

EQの回でも述べましたが、”ヴィンテージ”は、その音色こそ魅力的ですが、

・反応が個性的
・パラメータの変動に対して応答がリニアでない
・設定が独特だったり
・パラメーターの選択肢が限られている
・メーターが大雑把もしくは無い

こういったこともままあり、操作には経験や慣れを必要とするものも少なくありません(それを使いこなすのも醍醐味だけどね)。

一方で「取りあえず”コレ”を使えば”あの”音に」というタイプもあり、それはそれで手早く各トラックの音を仕上げるには便利です。しかし学習の過程においては”何が起きているのか”を把握して操作することが大切。「よくわからないけど、コレを挿して、このツマミを”2”にすると、何でも大体イイ感じ!」、これはナンセンスでしょう。

また、マスタリング・ステージでのコンプレッションは、とてもデリケートな調整を求められるので、各種メーター類をしっかり装備して、リニアに反応してくれるものの方が使いやすいし勉強になるでしょう。

レシオ

ミックスでは、3:1~8:1といったレシオで使うのが普通ですが、マスタリングでは、1.5~1.8くらいのレシオが一般的です。例えば”2.0:1”は、ミックスでは”低め”ですが、マスタリングでは”高め”です。とは言え、そのニュアンスの違いは微妙ですので、1.5か2.0のどちらかから始めて、その他のパラメータの調整が済んでから、1.5と2.0を切り替えて、ニュアンスの違いを聴き取る練習をすると耳も育って良いと思います。

ニー

ミックス時のコンプは、

・レシオとニーでベースとなる音色の方向を決定
・アタックとリリースで鳴り方を作る
・スレッショルドで効果の度合いを調整

という使い方になるので、ニーの設定は色々ですが、マスタリングの場合は、”ソフトニーが基本”と覚えておきましょう(ニーをハードにするのは、エッジの欲しい場合だけ)。これも最初はソフトニーで始めて、だいたい済ませてから、ニーの値を調整して音色の変化を聴き取ってみると良いと思います。

ゲイン・リダクション

ミックス時、ゲイン・リダクションは3dB~6dB、場合によっては12dBに達することもありますが、マスタリングでは、最大でも2dB程度。”かなり”でも3dBまでです。

アタック・タイム

アタック・タイムは長め。ミックスでは5msや、時には1msや、小数点以下という値も使いますが、マスタリングでは20msでもかなり短い方。30msは一般的、Hip-Hopなら40ms~60ms、オーケストラ、アンビエント、2ステップなら、100ms~150msといった値も使います。

マスタリングで、アタック・タイムが短か過ぎると、コンプレッサーが極度に素早く圧縮を行うので、音が歪みやすくなります。

リリース・タイム

リリース・タイムの設定には、耳と目の両方を使うと良いでしょう。Ozone7は、リアルタイムでロールしながらゲイン・リダクションを描画する”ゲイン・トレース・メーター”というものを装備しており(これ超便利)、ゲイン・リダクションの量と、そのニュアンスを目視できます。このメーターを見ながら、”次のトランジェントが訪れる前にゲインが回復する”ようにリリース・タイムを設定します。それにより、ビート系の音楽の”グルーヴ”が出てきますし、ビート系でない楽曲でも、音楽的な表現を豊かにできます。

適切なリリース・タイムというものは、様々な要因によって変化してきます。レシオ、リダクション量、アタック・タイム、楽曲のテンポ、リズムのニュアンス(8ビート、16ビート、スウィングの度合い)、リズムパターン、2mixのバランスなど。。つまり「このジャンルなら大体これくらいにしておけばOK」という推奨値は存在しないので、耳と目で調整します。

以下の画像は、ある2mixに対して0ms~5000msの間で5種類のリリース・タイムを適用して、ゲイン・トレース・メーターをキャプチャしたもの。”リリース・タイムの違いだけ”で、これだけゲイン・リダクションのカーブが変わってくるので初心者はぜひ参考にして下さい。


【リリース=0ms】ピークに対してゲインのリダクションが見られるが、一瞬で回復しているのがわかる(あまりに瞬間過ぎて描画されていないが、実際にはこの画像よりもう少し下まで削れているはず)。


【短か過ぎるリリース・タイム】ゲインの回復に一定の時間を要してはいるが、”グルーヴ”を生み出すような規則性がしっかり出ていない。ビートに関係の無い箇所にも反応。極度に素早く解放されることでゲインの変化に荒れが生じ、ディストーションも起きやすい。サウンドもザラついた感じ。


【最適なリリース・タイム】ノコギリ波のような形が見える。整っていて規則的であり、4分音符や8分音符のタイミングで反応しているのがわかる。且つ音の大きくない部分はしっかりゲインが回復している。サウンドが立体的で艶っぽくなり、”音楽的なグルーヴ”も顕著に表れてリズムの”ノリ”も良くなってくる。


【長過ぎるリリース・タイム】次のトランジェントが来るまでに回復が間に合っていない。故に音の大きくない箇所もゲインが下がったままだ。聴いた感じは、だんだん音量が上がってきたかと思うとふいに小さくなったりして、音量がフワフワと変動して妙な感じ。


【リリース・タイム=5000ms】極端な”かかりっぱなし”の状態。一番上の”リリース=0ms”の画像と比べると、ゲインリダクションのラインと画像上端のスペースの違いが見て取れる。つまり、単に”ずっと音量が小さいだけ”になっている(5000ms=5秒の間大きな音が無ければゲインが回復するということ)

Adaptive Release

”Adaptive Release”は、短いピークに対しては、ピーク直後の音量の大きくない部分を無駄に圧縮しないよう素早いリリースを与え、一方サスティンの長い信号に対しては、ディストーション防止のために長めのリリース・タイムを与えるという機能です。

よくある”オート・リリース”の場合、オートにすると、マニュアル設定の値は無効になり、いわゆる”まかせっきり”になりますが、この”Adaptive Release”の場合、マニュアル設定したリリース・タイムを尊重した上で、刻々と変化する信号に対して臨機応変にリリース・タイムを変動してくれるというスグレモノです。

マルチバンド・コンプレッサー

近年、あらゆるエフェクターがマルチバンド化されていますが、コンプレッサーも類に漏れません。


・ベースの音量がフワつくことで、楽曲全体が安定感を失っている
・ボーカルのダイナミクスを抑えて、前面に出したい
・時折出てくる大音量のクラッシュ・シンバルは抑えたいが、全編で鳴っているハイハットは抑えたくない

そういった時、マルチバンド・コンプはとても重宝するでしょう。それぞれの周波数帯に対して、異なる設定を与えて、思いのままにコンプレッション&メイクアップできますのでね。つまり、マルチバンド・コンプは、

特定の用途に適したツール

 
です。逆に言えば、”特定の目的が全く無ければ使う必要が無い”ということです。

・1つより複数の方が、なんだか良さそう(漠然と)
・マルチバンドの方が値段が高いから良さそう
・なんだかシングルバンドより上等なものを使って専門家気分
・複雑なインターフェイスに男の子ちょっとテンション上がる
・だって5段変速の自転車より、18段変速の方がすごそう

バカはこういう理由だけで、何の目的もなくマルチバンド・コンプを使ったりするんですよ。なんたって僕がそうでしたから!笑あははー。だから教室のミックス/マスタリングの初心者のプロジェクトを開く度によく親近感を覚えます。

前述のような”具体的な問題”が生じているということは、ミックスで失敗しているということですから、もし自分自身の楽曲ならミックス作業へ戻るといいと思います。逆に誰かが作った2mixならば、マルチバンド・コンプを駆使して特定の問題の解決のために尽力するといいと思います。

バンドによって最適なアタック・タイムは変わってくる

基本的には、低い帯域には長めのアタックを、高い帯域には短めのアタックを与えます。例えば50Hzの重低音は、1秒間に50回の振動ですから1000ms÷50=20ms(一周期が20ms)。ですので20msやそれ以下のアタック・タイムでは、人が”音”と認識するより早くコンプレッションされてしまうので、アタックを目立たせることなどできません。もっとずーっと長いアタック・タイムが必要になります。

逆に、5000Hzの音の場合1秒に5000回の振動ですから1000ms÷5000=0.2(一周期が0.2ms)。もし2msのアタック・タイムを与えたらそれは5000Hzの音の10周期分に相当する時間ですから、しっかりとアタックを強調することができます(小学校でかけ算や割り算を教わったことに感謝)。

あとは目的に向けて、レシオ、ニー、リリース、リダクションなどを調整していって下さい。そして、特別な目的が何も無いならば、シングルバンド・コンプレッサーを使っていきましょう(Ozone7の”Dynamics”という名称のコンプは、グラフ左下の”+”や”-”をクリックすることで、1バンドから4バンドまで、バンドを増減することができます)。

バイパスを使って聴き比べ

レシオ2:1、ニーはソフト、アタックは30ms前後、リリースは適宜、スレッショルドはリダクションが約1.5~2dB、試しにこのセッティングにして、バイパスのオンオフでコンプ処理前と処理後をよく聴き比べてみて下さい。

・メインボーカルの立体感と抜けが格段に良くなる
・サウンド全体に艶と色気が出てくる
・メインとバックの分離が非常に良くなる
・音場の奥行き感が増す
・不要なものが耳に入ってきにくくなる
・リバーブがよく見通せるようになる
・サウンド全体がスッキリして立体感が出てくる
・まとまったサウンドになる

僕はこんな風に感じます。効果絶大です。マルチバンド・コンプは、”特定のバンドを監視し、そのバンドをコンプレッションする”、シングルバンド・コンプは、”全体を監視し、どこの帯域であろうとも引っかかるレベルがあれば全体をコンプレッションする”。この、

どこの帯域がトリガーになったとしても、全体がコンプレッションされる

これがミソ。これがあってこのような結果が得られます。

行ったり来たりして調整すること

プリ&ポストEQ、そしてコンプ、という順番で解説しましたが、信号の流れる順番に調整し始めてもいいし、最初にコンプからはじめてもいいと思います。でも最終的にはプリEQ、コンプ、ポストEQそれらを、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら調整していきます。

一度調整したからと言って「このモジュールはこれでオシマイ」ということは無いんですね。このあと”ステレオ・イメージャー”を解説しますけど、ステレオ・イメージャーによって高域が強調されたりもするので、最終的には全部を行ったり来たりして追い込んでいきます(作曲する時のメロとコードとアレンジの関係に似てますね)。

はい、今回は以上!
次はステレオ・イメージャー
M/S?
うーん。。

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