音楽制作において、ヘッドホンは重要なツールの一つですが、「ヘッドホンで本当にミックスができるのか?」という疑問は、長年にわたって宅録・DTM界隈で議論されてきました。ヘッドホンはノイズのチェックやモニタリングには優れている一方で、ミックスには適さないとされる理由がいくつか存在します。このブログでは、ヘッドホンの用途や特性、そしてなぜミックスに向いていないのかについて詳しく解説しながら、用途に応じたおすすめのヘッドホンも紹介していきます。
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ヘッドホンの用途
1.ノイズやひずみのチェック
プチッといったタイプのノイズや、録音時に引き起こされるひずみのチェック、窓や床から入る低周波や、空調やパソコンのファンが発する動作音など、継続的に入っているノイズのチェック、アナログ機器が発するヒス・ノイズやハム・ノイズ、こういったもののチェックはスピーカーよりもヘッドホンの方が断然優れている(発見しやすい)ので、ヘッドホンを用います。
2.アレンジ中のモニタリング
次々とトラックを増やして楽曲をアレンジしていく時は、スピーカー、ヘッドホン、どちらを用いても構わないので、ヘッドホンの方が没入できるとか、スピーカーの方が開放的になれるとか、隣人に迷惑がかからないようにとか、それぞれの理由で好きな方を使っていくといいです。
3.マスタリング
マスタリング時には「どんな再生環境でも破綻しないサウンド」を得るために、様々な再生環境でチェックします。いくつものスピーカー、いくつものヘッドホン、イヤホン、スマホ、ノートPC、テレビ、カーステレオ、安価なPCスピーカーなど、あらゆる再生装置から音を出して確認・調整していきます。
ヘッドホンが適さない用途
・ミキシング
ヘッドホンでのモニタリングでは、スピーカーの時のように音像が前方に結ばれないので音量を距離感に置き換えてフェーダーを調整することができません。なのでバランスが正しく取れません。またLチャンネルの信号は左耳のみに、Rチャンネルの信号は右耳のみにしか入ってこないため、横方向の広がりや定位が極端に聴こえてしまう再生装置です。そのためパン設定や、広がりの確認・調整も正しく行えません。
また、人の目が右目と左目で近視や乱視の度合いが違って左右差があるように、耳にも多かれ少なかれ左右差が生じています(人はマシンではないので当然です)。周波数毎に左右で6dBくらいの差は普通、周波数によっては12dBの感度の違いが出る場合もそう珍しくはありません(耳鼻科の医師に聞くとわかります)。そのためそれぞれのチャンネルがそれぞれの耳にしか入ってこないヘッドホンでは、正しく音量設定や帯域バランスの調整が行えません。
業界の裏事情
こういった理由から、ヘッドホンでミックスを行うプロのエンジニアはどこにもいません。「僕は飛行機などでの移動中にこのイヤホンを使っているよ。これで仮ミックスをしておくと現場に着いてからの作業がすごく短縮できるのさ!」などと雑誌で語っている有名なミキシング・エンジニアやトラック・メーカーは、イヤホンメーカーの広告塔となる契約を結んでギャラをもらい、時には雑誌の出版社からギャラをもらい、当該のイヤホンに対して(たとえそれをほとんど使っていなくても)大袈裟にリップサービスします。それも仕事のうちなのです。そんな言葉につられてあなたが購入したイヤホンの価格のうちのいくらかは、彼が所有するフェラーリの洗車代の一部となります(自分も出版業界で10年以上に渡って記事を書いていたので懺悔したいことがいくつかありますが墓場まで持っていく覚悟です…)
といったわけで、ヘッドホンはミックスを行う道具ではないので、「ミックスに適したヘッドホン」などありません。あなたが評判の良い愛用のヘッドホンでどんなに時間をかけてミックスしても「いびつなサウンド」にしか辿り着かない、と覚えておきましょう。この世に登山に適した水着が無いのと同じです。目的が違うのです。「着るものなら全部いっしょ」ではないように、「音が出るなら全部いっしょ」ではないのです。
後編は僕が使っているヘッドフォンのレビューとまとめです。
プロフェッショナルなミックスのアドバイスが必要ですか?