パンツ見る?

もう20年近くも前・・・、あるパーティーに招かれた時のことだ。それは、JALの国際線の機長をされている方のお宅で行われた、ささやかなパーティー(お宅はささやかではなく、たいへんご立派)だった。

僕は昔からこういった場では、大人との談笑もそこそこに子供と遊ぶことになるのだ。親戚の集まりでも、友達やその家族との集まりでも、いついかなる時でも、だ。僕からどんなオーラが出ているのかは知らない。だが必ず子供の方から近寄ってくる。よほど変なおじさんに見えるのだろう。子供は ”異質なもの” に興味を示す生き物である。

そして僕はというと ”これ幸い” とばかりに子供と話し、遊びはじめるのだ。「待ってました」という心境だ。なぜなら、やれ最近の天気がどうだの、誰さんちの息子がどうしただの、有名人が逮捕されただの、スポーツで誰かが活躍しただの、”まともな人間のフリ” をして、こういった全く興味の無いことを大人と話しているのが、退屈などというレベルではなく、”マジ苦痛” なのである。

「最近、仕事の方はどうなの?」などと聞かれたりするともう最悪である。「フツー。」で済ませられる相手ならいいが、そういう場合は少ない。だから ”どう説明してもわかってもらえっこない音楽の仕事” について、”一般の人がわかる範囲で上手に説明する” ということに挑まなければならないのだ。

そして大抵、四苦八苦してひとつを説明すると、次の質問が投げかけられることになる。大して興味なんか無いのに、だ。ただの話題作り、つまり社交辞令の延長の質問なのだ。教室の生徒の質問とは全く違う。その質問は”ヒマつぶし” なのである。そして僕は、この人には何がわかって何がわからないか、どう言ったら伝わってどう言ったら伝わらないのか、そんなことを考えながら、苦労して答えをひねり出さなければならない。とめどなく投げかけられるヒマつぶしの質問に!!

・・・だから子供が寄ってくるのは万々歳なのである。仕事でも何でもない時に仕事のことを考えさせられるほど嫌なことはない。だからミュージシャンが集まって飲んで騒ぐ時、音楽のことなんか語っている奴などそこにはひとりもいないのである。たまに語ってる若いのがいると、誰かの「うるせえ!!!」で一蹴である。僕らは音楽のことは、シラフの時に考え、シラフの時に話す。

さて、この日のパーティーでも僕のオーラに導かれて子供が寄ってきた。知的で穏やかで紳士な機長と、上品で美しい奥様との間の娘さんだ。大きくなったらたいへんなべっぴんさんになる予兆”大”の4歳児である。この日は彼女をきっかけに苦痛から解放されることができた。感謝である。

遊び方は、「好きなもの(こと)を交互に言う」とか、「キライなもの(こと)を交互に言う」とか、そんなことで構わない。こちらも全力で頭を柔らかくして、ありとあらゆる自分の好きなことやキライなことを並べていく。そして頃合いを見計らって「うんこ」や「ちんちん」などのキーワードを挟んでいく。これは鉄板ネタである。どんな子供でも「うんこ」と「ちんちん」は例外なく喜ぶ ”キラーワード” なのだ。これらの鉄板ネタをタイミングよく繰り出せば大喜び間違いない。

そして、ビールを片手に会話にふけっている大人を指さして、「ホラあそこでハゲがおいしそうにオシッコを飲んでるよ」など耳元でささやけば、転がって笑ってくれるのである。そして一緒に転がって笑うのだ。あー楽しい。大人と興味の無い話をしているより、ずっとずっと有意義な時間だ。

さて、そうこうしていると、階下の別室で何かの ”お披露目” が始まるらしく、パーティーの参加者が続々と移動しはじめた。

「キミは?」
「あっ、 いえ、、僕は結構です^^」

当然、子供との自由な会話を楽しむ方を選ぶ。何かの ”お披露目” には興味はないのだ。そして僕ら二人だけが部屋に残った。階下からかすかに賑わいが聞えるが、部屋の中はしんと静まりかえった。そうすると彼女が、内緒話をするようなヒソヒソ声でこう切り出した。

「ねぇ」

「なーに?」

「パンツ見る?」

何だこれは!? いつも子供が近寄ってくるとは言え、こんな展開は初めてだ! しかし何だ!? いくら「うんこ」や「ちんちん」などの話題で転がって笑った仲とは言え、そして相手が幼児だとは言え、これはマズいだろう!? ひょっとして悪い大人に「おじさんは誰でも女の子のパンツが見たいものだ」とか吹き込まれたのか!?(まぁだいたい合っている) そしてたくさん笑わせてくれたからパンツを見せてあげよう♪とか、そういうことなのか!? しかしながら幼児のパンツなんかに興味はない! 僕は変態じゃない! 興味がないのにうっかり見てしまい、そしてもし彼女が僕にパンツを見せているその真っ最中に、階下から誰か戻ってきたら大変な事態になるぞ!!

それが奥さんだったら「キャー!!あなたーー!!!」と叫ぶに違いない! 普段は温厚な機長が駆け込んできて「キ、キミ!! 娘に何をさせているんだ!!!」 そう間違いなく ”変態” のレッテルを張られてしまう! 僕はその場で羽交い絞めにされ、部屋から引きずり出され、ボロ雑巾のように玄関の前に投げ捨てられて、「もう二度と来ないでくれ!!」と、カバンと靴を放り投げられて、バタン!とドアを閉められるのだ! そして次のパーティーからは、そこにいない僕の ”ロリコン野郎の変態話し” でヒマを潰して笑うのだろう! そんな屈辱には耐えられない! 絶対にマズい!!!

断固としてに阻止すべきである。

「パンツ見る?」
「見ない」
「パンツ見る?」
「見ない」
「パンツ見る?」
「見ない」
「パンツ見る?」
「見ない」
「パンツ見る?」
「見ない」

果てしない攻防の末、

「・・・・・ホラ!!」

見ないと言っているのに!娘がスカートをめくった!!! そして!!!

「これがセーラームーンでしょ。これがセーラーマーズ。でこれがぁ」

そこへ奥さんがドアを開けて部屋に戻ってきた!!! あぁ何たる最悪のタイミング。理由はどうであれ、これでもう変態呼ばわり間違いナシである。目の前が真っ暗になった。

「ほらまたぁ。駄目でしょ? ごめんなさいね~^^;」

力が抜けた・・・。娘は、買ってもらったセーラームーンのパンツが嬉しくて誰にでも見せていたのである。それをママにやめなさいと言われていたのだろう。ママがいなくなったその隙に、こっそりと僕に見せたかったのだ。セーラームーン・パンツを。

良かった・・・俺は変態じゃない。。

階下へいかなかったのに、とんだものをお披露目されてしまったパーティーとなった。あの娘さんは今頃20代前半だろう。きっと美しいお嬢さんに育ったに違いない。今なら二つ返事である。
 
 
 

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